今後数十年で人間がたどっていく未来の予測

私がバーチャルリアリティ(VR)の会社を立ち上げた理由として、今後数十年で人間はどういう未来をたどっていくのかの予測があります。
 
VRは人間のインプットを乗っ取り、アウトプットを直接読み取る技術です。
 
人間のインプットとは五感や、平衡感覚などの感覚です。
VRというと、Oculus、Viveのようにヘッドマウントディスプレイを使って視覚、聴覚を乗っ取るものを思い浮かべるかと思います。
しかし、触覚などの体性感覚を刺激するデバイスも出ていますし、嗅覚、味覚のVRも重要です。
平衡感覚を直接刺激し、重力、加速度などを錯覚させるデバイスも発表されています。
人間のアウトプットは身体です。
喉を震わせて口で会話し、手で文字を書いたり、頭を動かして別の方向を見たり、また視線や、顔の表情など、人間は身体を使って外界と接するので、それを直接読み取ることが、VRの鍵になります。
 
VRは現実かのように知覚させる技術のことですが、そのために人間のインプットを乗っ取り、アウトプットをそのまま読み取る、つまり人間を直接コンピュータにつなげることの方に本質があると思います。
「VRは人間のインプットとアウトプットを直接コンピュータにつなげるインターフェイスである」と定義をしたいと思います。
そして、今後数十年で人間とコンピュータとの間のインターフェイスの進化はVRに収束すると予測をしています。
 
Pokémon Goのような現実に様々な情報を重ね合わせる拡張現実(AR)は、VRの一種ですが、分けて語られることもあります。
しかし、「人間を直接コンピュータにつなげるインターフェイス 」という観点では、 ARは現実世界を透過して見せるか、完全に没入させるかの違いで、VRデバイスの進化の過程で当然あるべき機能ということになります。
 
VRデバイスは10年もすれば、人間の網膜が読み取れる解像度を超え、普通のメガネと変わらない大きさになり、ARかどうかをシームレスに切り替えられるようになるでしょう。
Leap Motionは5~7年で、以下のような非常に軽量でARかどうかを切り替えることができ、視線を読み取るデバイスが登場すると予測しています。
 

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視覚のすべてを使ったユーザ体験は何物にも代えがたく、また常に身につけていてポケットから取り出す手間もなくなるわけなので、スマホやPC、テレビ、タブレットなどは、だんだんとVRデバイスに置き換わっていくことになります。
 
しかし、まだこの段階でのVRは不完全です。
視覚はほぼ完全に乗っ取ることができますが、それ以外の感覚、特に触覚などの体性感覚を乗っ取るのは難しく、キーボードのような物理デバイスなしにボタンを押す圧力感覚を完全に得るのは難しいです。
視線や手の動きを読み取ったコンピュータへの入力は不自由さが残りますし、声を出して入力するのは面倒くさく、どんな状況でもできるわけではありません。
そうなると、必然的に、脳を直接読み取ってコンピュータに入力し、脳に直接作用して感覚を自在に操るような進化を遂げるでしょう。
 

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シンギュラリティという言葉を提唱したレイ・カーツワイルは、2030年代には、数十億個のナノマシンを脳内に挿入し直接脳を読み取り、VR空間を生成できるようになると予測しています。
ナノマシンはすでに癌の治療にも応用されていて、決してSFの話ではなく、現在の基礎技術の延長にある、時間が解決する問題です。
そして、技術の加速度的な進化を考えると、もしかしたらあと十数年後には実現しているかもしれないのです。
人間の脳は、VRという究極のインターフェイスを通じて直接コンピュータにつながり、人間の能力は飛躍的に向上することになります。
 
では、シンギュラリティでよく引き合いに出される人工知能(AI)はどういう役割を果たすのでしょうか?
コンピュータは計算する機械という意味ですが、それを使う目的はもともと人間の知的作業を担うことです。
最初は記憶や計算など人間の知能の一部しか担えなかったものの、金融取引、インターネット広告の表示・入札、商品のリコメンデーション、医療診断、クレジットカードの不正検知、など高度な知的判断が必要なシーンの多くにコンピュータが使われるようになってきました。
狭義のAI、つまり人間の知能のすべてを模倣し、完全に自律的に動くAIがどこまで必要かという議論は一旦置いておきます。
しかし、今後あらゆる知性が必要とされるシーンにコンピュータが使われるようになってきますので、コンピュータは単に計算する機械という名前より、AIと呼んだ方がしっくり来るようになるでしょう。
人間の脳がVRを通して直接コンピュータにつながる未来は、人間の脳がVRを通して直接AIにつながる未来と言い換えることができると思います。
 
では、人間の脳がVRでAIに直接つながるとどうなるのでしょうか?
実際に旅行に行かずとも、その土地の風や匂いなどをそのまま体感できますし、
歴史上のある時点にタイムスリップして、出来事を追体験することもできますし、
栄養食を口に入れただけで、一流のシェフが作った料理を食べたかのように感動することができます。
またAIは人間の知能をはるかにしのぐようになるわけなので、AIが作ったゲーム、映画などのコンテンツは人間の想像の範囲をはるかに超え、ただただ感動をするしかありません。
また、ある人が感動した体験をそのまま別の人に追体験させることができますし、その体験をデータとして保存することができます。
ある人の脳もそのままデータで保存でき、あらゆる時間、空間で再現できるわけなので、不死を手に入れたとも言えるでしょう。
当然、多くの倫理的な課題が生まれますが、それらは悪意を持ったAIが人間を滅ぼす可能性よりも、喫緊で根源的な問題として人類に課せられることになります。
 
VRを突き詰めると、人間とは何で、どういった形に進化していくかということなのです。